第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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気分転換にと重たい体を動かして空を見れば、驚くほどに快晴だった。
こんな時には雨が降ってくれていれば良かったのに、そうすればこんなにも重い気持ちで彼と今の時間を過ごす事もなかった。
もうすぐ夏休みだというのに、こんなに浮かない気分で迎えることになるとは数時間前の私は想像もしてなかっただろうに。
自分の自信のなさに静かにため息をついて、本をしまう為に奥の本棚の方へと足を進める。
中原先輩から死角の場所で大きく深呼吸。
途端に溢れ出しそうになる涙をグッと堪えて、溢れないよう真上を見つめる。
「(.....、私は釣り合わない、期待したって無駄。)」
彼に素敵な人がいることを願いながら、その本を元の場所へとそっと仕舞う。
そうすればほら、なんだ少しは気が楽になってきた。彼には素敵な人がいるのだから、私が気にしようが気にしまいが関係がない。
いつもの私で喋りかけるのは無理だから、せめて猫を被ってでも自然と話せるようにしないと先輩に負担がかかる。
軽い足取りでカウンターに戻り、中原先輩に向き合う。
猫被りの笑顔は多分すごく醜いけど、今の私に出来る最大限の抵抗だ。
「中原先輩、またオススメの本教えてください。読む本がなくなってきちゃったんで。」
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夏休み前の憂鬱(完)