第2章 愛は囁くな(中原夢)
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珈琲、ではなく紅茶の入ったペットボトルのキャップをあけて、空のコップ並々に注いでいく。新しく暖かいものを淹れるのもなんだか面倒になってしまうくらい疲れてしまった。
こうなるともう末期だ、なんて1人で思いながら自分の机に戻っている所でふと目についたのは中也の椅子の背凭れ掛けられた長い上着。外出時によく肩にかけているのを目にするけれど、中ではあまり見かけない。
チラリと窓に目をやると、もう陽も傾いてきて少しばかり寒いと感じた。
春といってもまだ夜は肌寒い。
「あー、つかれた。」
並々に注いだコップは今にも零れ落ちそう。表面張力で何とか耐えているけれど、少し揺らしただけでも机が洪水になりそうだ。
少しばかり飲んで量を減ったのを確認してから机に置く。
そして先ほど目についた中也の上着を奪い去ろうとしたけれど、椅子にかかっていたため中也がストッパーとなり取れなかった。
当たり前の事だけれど、私は構わずぐいぐい引っ張る。
「手前、なに勝手に取ろうとしてんだ。」
「寒いから貸して。」
「....一言いえば普通に貸してやるよ。けどよ、毎度毎度なんで手前は黙って取ろうとすんだ?」
ほら、と御丁寧に上着を肩にかけてくれた流石マフィアの英国紳士(ちびっこ)だ。
...まぁ、今のは私だけが言っているだけなんだけどね。
「何でって...、そこに中也の上着があったから。」
身体全体を覆うようにして上着を両手で引き寄せる。それと同時にふわっと鼻に付く香水は、何時も中也が付けているものとは違う匂いだった。
疑問に思いながらも、これは突っ込んだら負けのやつだと思いそのまま机に戻る。
はて、その先もしたのだろうかと在らぬ妄想までしていると、それがバレたのか中也が私の顔面に向かって煙草の煙を吹きかけてきた。
目の前が白い煙に覆われ、ひゅっと器官がやられる音がした。
「..!っゲホッ、...幾ら何でも、ゲホッ、直接吹きかけるのは...!」
「そう言うのはまだ早いって事だよ。お子ちゃまはよぉ。」
ケラケラと馬鹿にした笑い方をするもんだから、こっちだって余計に腹がたつ。
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