第2章 愛は囁くな(中原夢)
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誰だって、人が死ぬのは悲しいこと。
勿論その相手が死んで欲しい相手だったら死ぬほど喜ぶだろうけど、やはり後を襲うのは喪失感。
仕事だから私情を持ってきてはならぬ、なんて無理がある話だ。だって私たちは人間なのだから。
「中也。」と名前を呼べば愛想のない声で返事が返ってくる。
私はこれがどうしようもなく幸せなのだ。
存在を確かめ合って、何気ない話をして、そして笑うのだ。大声でも小さな声でも良いから、ひたすらに。
「中也、....、……………、何でもない。」
「...なんだぁ?気持ち悪りぃ。」
「ふふ、何でもないよ。」
だけど、この気持ちだけは如何しても閉まっておかないと、きっと更に虚しさが誘うから。それを貴方も知っているから言わないんだ。
形を覚えておけるよう、中也の胸に顔を埋める。
匂い、髪の色、顔と表情。そして声。
そう、それで良い。
伝えないほうが良いことだと2人とも分かっていたのだから。こうして覚えるだけで。
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肌寒かったはずなのに、いつの間にか暑いくらいになっていた。
それはきっと、中也が体温を分けてくれたから。
【好きだよ。ずっと、これからもこうしていようね。】
さよならとこの言葉は何時迄も、言葉にしないままが幸せなのだ。
ー
愛は囁くなー完ー