第2章 愛は囁くな(中原夢)
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「ねね、中也。」
「んだよ。」
「猫のモノマネしてよ。」
夕陽が差し込む幹部室。
其処には私と中也、2人が死んだ魚の眼をしながら山積みの書類を処理している。
昨夜、横浜を暴れ回っていたちっさいマフィアをぶっ叩いたのだけれど、在らぬことか書類がどんどん回って来ていた。
もうそれは目眩がしそうなほど大量に。
そんなこんなでかれこれ2時間くらい机に向かって判子を押したり、後の処理の書類に目を通したりしていたのだが、そろそろ私の集中力が切れ始めていた。
それは中也も同じ様で、今ではタバコを吸いながら机に向かっている。
灰が書類にこぼれ落ちない様に丁寧にタバコを吸うのも面倒なくせに、今ではそれをやりながらでも吸っていないと頭が回らないのか、いつも以上の目つきで一枚の紙と睨めっこ。
私が猫のモノマネを要求したのも集中力を取り戻すため。
....なんて。
まぁ、ぶっちゃけ言うなら理由はない。
「嫌に決まってんだろ。」
「ケチだなぁ。中也と違ってタバコ吸えない分ストレス溜まるの。」
「吸えばいいだろ。」
「未成年者にそれを言うか。」
そう。私はまだ19で、法律上あと半年経たないとタバコは吸えないのだ。
マフィアが法律を気にする必要もないだろうと思われるかも知れないが、私は真面目ちゃん気質なところがあるらしく、そこらへんはどうも気にしてしまう。
前に治からそれを馬鹿にされて、何度か喧嘩になったこともあるくらいに。
「それに煙草吸うなら外で吸って。副流煙で私が先に死んじゃうよ。」
「別に俺らなんていつ死んでもおかしくねぇだろうが。」
「...、まぁ、そうだけどさー。」
手にとっていた書類の束を机に叩きつける様に置いて、空のコップを片手に立ち上がる。
いつ死んでもおかしくない。
分かってはいることだけど、言葉にすると余計に心に刺さる。
この世界で生きていくなら、死ぬ覚悟が出来ているのが当然みたいに思われているけれど私はそうは思わない。
だって実際、私はマフィアの為に死んでも良いと考えたことなんて一度もないからである。むしろ、このマフィアの為に生涯を尽くす、といったほうが正しい。
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