第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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「....、あの、」
「?、はい?」
「ごめんなさい、勉強している人もいるのでもう少し静かにお願いします....。」
とても、いや、かなり申し訳なさそうな顔をして、彼女達に控えめに言う。
そうすれば彼女達も周りの静けさがわかったのか、中原先輩にさよならを言ってそそくさと去って行ってしまった。
撃退成功と言わんばかりに控えめにだがガッツポーズをすれば、中原先輩にそれを見られて笑われた。
そんなに可笑しくないものだと思うのだが、彼は口元を抑えながら肩を揺らす。
「ふ、ははは、」
「わ、笑わないでくださいよ...、結構勇気いるんですから。」
「はは、悪りぃ悪りぃ。手前、面白いな。」
「それはどうも...。」
「不貞腐れんなよ。褒めてんだぜ?」
ニヤリとした笑みを浮かべる中原先輩にまたもや胸が高鳴る。
薄められた瞳の奥には青色の宝石のように光る悪戯っ子のような目。
吸い込まれてしまいそうなその瞳からなんとか目をそらす。
....ここでようやく、みんな血眼になって中原先輩の情報を探し掴む訳がよくやく理解できた。
このままずっと彼を見ていたら、何か抜け出せない沼に足を取られてしまいそうだもの。
なんとも言えない気持ちが気持ち悪くて、だけどその初めての感情に取り憑かれている。
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