第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
ーーーー
それから私は何かに取り憑かれたかのように、呆れるくらい図書室に通った。
たまに先輩が来ない日もあったけど、その日はどことない安心と寂しさが襲ったので、先輩からオススメしてもらった本を読んで気を紛らわせた。
担当の日にはカウンターで静かに彼が来ることを祈りながら待つ。
「(...、これは恋、ではない。きっと。)」
そうでないと信じたいけど、
ちらりと周りを見るふりをして、先ほど来たばかりの彼を見ればバッチリと目が合った。
慌ててなんでもなかったかのように視線を反対側の窓にやる。
気の所為かもしれないが、何故だか頰周りがあったかい気がする。
「(...この人に恋なんてしない。絶対、しない。)」
ぐっと拳を握りしめてカウンターに積み上げてある本の整理をしていく。
私が頑なに中原先輩に恋したくないのは、この人が遠い人存在の人だから。
釣り合う人ならまだしも、私のように努力してもカバーしきれない部分がある人はどうしても届かない。
きっと、彼には素敵な彼女がいるのだ。
諦めるなら今のうちがお勧めだと脳内の天使と悪魔は同時に囁く。
「...、鬼桜?」
中原先輩の声にハッと意識が現実に戻る。
「は、はい。」
「どうかしたか?さっきからぼーっとして。」
心配そうに私の顔を覗き込む彼に対して、私は椅子ごと身を引いてしまう。
その椅子の音がやけに図書室に響き渡って、虚しい。
やってしまっと顔面蒼白になる私に対して、彼は手を差し伸べようとする。
その手を振り払うわけにも行かず、自分の額に手を当ててその手を空で止めさせた。
「...少し目眩がしただけです。今やっと落ち着きました。」
「...、そうか。なら良かった。」
「心配、ありがとうございます。」
気まずい雰囲気に、二人の間は静寂になってしまった。
別に彼に嫌われたくなんかない。むしろもう少し喋れないものかと考えてしまっているのだけれど、私の中でどうしても釣り合わない、という事ばかりが支配していく。
ーーーーーー