第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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どうやら大学か専門学校に行くらしい、ということはもう行くところが決まっているということで。AOで入るくらいなのだから、何か夢を追っているのだろう。
私の感嘆に彼は可笑しそうに笑った。
くしゃっと笑う笑みにこれまた胸が高鳴る。
「はは、そんな感激するようなもんでもねェよ。」
「そうですか?すごいと思いますよ。
中々決められない人とかもまだ居る中で決断してる人ってカッコ良くないですか?」
中原先輩がカウンターに入りながら来るのをちらりと見ながら言葉を繋ぐ。
「そうか?」
「私的には、です。」
出しっ放しにしていた中原先輩の貸し出しカードを慌てて仕舞って、カウンターに放置されていた返却リストに目を通す。
すると先輩もそれが気になったのか、私の手元のリストを覗き込んできた。慌てて先輩も見易いように二人の真ん中へと持っていく。
「最近あんま返ってこねぇなぁ。」
「なんか返さない人最近増えましたよね。」
「...あ、此奴五冊も貯めてやがる...!!」
見知った人の名前があったのか、その人の名前を見た途端に少しだけ声を荒げた。
どうやらその人とは険悪な仲のようだ。
と、ここで本を借りに来た人が此方へと向かって来ているのが見えたため、紙を先輩に渡して私はその人の対応をする。
「何年何組ですか?」
「あ、1年6組の菊池です...、」
「わかりました。」
1年6組の束を取ってカードを順番に見ていく。
私が見つけるのに苦戦していると、隣にいた中原先輩が私の手からカードの束を半分ひょいと取り上げて探してくれた。
「中原...、先輩。ありがとうございます。」
「どうってことねぇよ....、あ、これか?」
初めて読んだ名前にドキドキしているうちに中原先輩が見つけたのか、相手の女の子にそのカードを差し出した。
女の子はそれを受け取ってカードを記入していく。その一瞬間その女の子は少しだけほおを緩めたのを私は見逃さなかった。
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