第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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怖い世の中だと身震いをしてカウンターの上にあるものを整理し始めると、誰かがカウンターの目の前にやってきた。
反射的に見上げれば、其処には先ほど奥の方に行ってしまっていた中原さんが立っていえ、驚いて体を少し揺らす。
「....、鬼桜、であってるか?」
....しかも私の苗字まで呼んだ。
驚きのあまり返事がおかしくなってしまったが、私が鬼桜であることに安心したのかホッとしたような表情を浮かべた。
「それなら良かった。5日掃除一緒だったよな?」
「あ、いや、同級生の子が変わって欲しいって言ってたんで10日と変わっちゃいました。」
「....、あー、まじか。」
不味そうな顔をして突然項垂れる彼に何事かと慌てる。
というか、その日何か重大なことがあったのだろうか。とりあえず、変な顔をする彼に声を掛ける。
「ど、どうしました?」
「...、いや、個人的な問題だからなんでもねぇ。」
「は、はぁ...、」
いや、かなり落ち込んでいるようにも見えるのだけど、その日何かあったのだろうか。
もしかしてこれない日だとかで伝えに来てくれたのならなんだか申し訳ない。
「あ、えっと...、私と代わった人は確か..、」
と言ったところで言葉が詰まる。
顔は覚えているけれど何組かも名前も把握していない。
「...、すみません、知らない子と変わっちゃったんで相手の名前が...、」
「...嗚呼、別にそれは大丈夫だ。」
「(大丈夫なんかい。)」
その言葉にホッと胸をなで下ろしながらツッコミを入れる。どうやらその子に伝えるべきことはないようなので此方としても安心だ。
彼はキョロキョロと視線をあちこちにやりながら、気まずそうに口を開く。
「...、なんか手伝うぜ?俺もどうせ暇だからよ。」
「え、大丈夫ですよ!3年生は大学とかあるじゃないですか。」
「俺はもう決まってるから大丈夫だ。」
「AOですか?」
「嗚呼。」
その返事に私は感嘆を漏らす。
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