第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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何処かでちらっとだけ見た記憶があったため、頭をひねって記憶を呼び覚ます。
しかしそれでは思い出せなかったため、さっき仕舞おうとしていた貸し出しカードをみれば、3年4組中原中也と綺麗な字で書かれていた。
その思い当たる名前にハッとする。
「(この人って私と掃除が一緒だった人..?)」
そうか、あんなにかっこ良ければ一年生でも知っている人は多いはず。
それにあれほどかっこいいのなら死ぬほどモテるに違いない。現にあの女の子だって中原さんが好きで私に代わって欲しかったのだろうし。
ぼけっとそんなことを思いながらカウンターに座っていると、いつの間にか図書室には数名来ていたらしく、そのうちの3人が声を上げた。
その声で現実に引き戻される。
「ねぇ、中原先輩いた?」
「いたいた!あの奥の本棚に!」
「えー、話しかける?」
....、どうやら先ほどの人の追っかけのようだ。よく放課後まで使って追いかけるものだと感心していると、そのうちの一人が私に声をかけて来た。
「あのぉ、」
「はい?」
「中原先輩って図書委員ですよね?」
...想定はしていたがやはり中原さんのことを聞きに来たようだ。
「そうですよ。」
「あの、メールアドレスとか知ってます?」
「え、メールアドレスは流石に知らないですけど....、」
そう私がいえば聞きに来ていないほかの女子も落胆した。そしてその子は何も言わずに席に戻り、再度話を始めた。
だけど、知っていたとしてもそれは個人情報な訳だから教えるわけがない。
それに知らない人からメールが来たら驚くだろうし、知りもしない相手からこんにちはなんて来ても返す筈がないのだ。
そう思うと今の時代どこから個人情報が漏れているのかなんて考えただけでも恐ろしい。
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