第10章 夏休み前の憂鬱(中原夢)
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一人で頭を抱えていると、ふと耳についたのは後ろの席にいた女の子二人組の話し声。
「中原先輩いるじゃん!...あー、でも一緒じゃないや。」
「一緒が良かったなぁ。かっこいいし、やさしいし!羨ましい〜!...この人代わってくれないかな?」
一年生でも知っていると言うことは、どうやらかなり人気の先輩らしい。此処にいるのかわからないけど、まぁ、ヤンキーでなくて良かったと一安心。
まぁ、相手からしてもこいつ誰だ状態なわけだし、相当嫌だろうに。
「ねぇ、鬼桜ちゃん!」
お昼休みが終りかけそうなので席を立とうとした時、突然見知らぬ女の子が声をかけて来た。後ろには一人の女の子が付いていて、なんだか少し威圧がすごい。
同学年であることは確かだが、此方としては名前もわからない。なのに相手は私の苗字を知っていると言うことは、誰かから聞いたのだろうか。
その女の子はさも知り合いかのように軽い口調で喋りかけてくる。
「10日と変わってくれない?私その日遊びに行っちゃうから....、」
「10日?...うん、大丈夫だよ。」
私は快く了解をすると、彼女はとても嬉しそうにお礼を言ってから二人で足早に去って行ってしまった。
女の子が去ってから紙をよく見ると、10日は1年生の子で名前を見る限り男の子らしい。
まぁ、一年生であるほうが先輩として話しやすいし良いとしよう。
「.....、あ。」
とここで、気づいた。
先ほどの女の子は確かこのあいだの文化祭で中原先輩という人のことが好きだと言っていた同学年の女の子だった気が。
...どうやら私は無意識のうちに人の恋を叶えようとしていたらしい。
「(でも、それならそうと言ってくれれば良かったのに。)」
別に誰かの恋路地を邪魔するつもりなんてないし、むしろ応援してあげるのに。
...、まぁでも他人にホイホイ好きな人を明かせるはずもないよなぁ。
ここは心の中で応援してやるか。
先ほど去って行った方を見て頑張れとエールを送って私はその場を後にした。
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