第8章 散る梅花(太宰夢?)
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ボロボロと溢れるものも何もないはずなのに、頰を伝うものはきっと雨に違いない。
透けて涙に見えるだけ。
「私は何人殺した?
何回慈悲をねだられた?
何回虐殺した?
何回子供を殺した?
答えは単純、数え切れないほどだよ。」
抑え切れない感情が溢れ出して、頭が痛くなる。
苦しい、悲しい、寂しい、殺意、怒り、虚しさ、色々なものが入り混じって余計に頭が混乱する。
「織田作も、救えなかった。」
「...、そうだね。」
「...、織田作は、私にごめんねって謝った。」
「..うん。」
「っ、それが、其れがどうしようもなく苦しかったの。」
徐々に歪んでいく顔を、唯太宰は真っ直ぐ私を見つめた。
一歩、一歩近づいていくその距離に、私は抵抗もしない。
何をしても、無駄な気がしたから。
降り続ける雨に打たれる私は周りから見たらなんとも滑稽な様だろうか。
私は唯楽しかった日々に焦がれているだけなのに、それは鎖のように私にまとわりついて暗い過去から離してくれない。
...あの日を、忘れるなと言わんばかりに。
「もう赦して、」
「離して、」
「....許してるよ、織田作は。」
俯く顔を優しく引き寄せられる。
コツンとぶつかるのは額同士。
茶色い透き通った太宰の目が、やけに綺麗に見えるのはきっと気の所為に違いない。
交わる視線は熱っぽさを増す。
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