第8章 散る梅花(太宰夢?)
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「....柊、もういいんだ。
忘れちゃいけないけど、其れを背負っていけばいい。
辛いなら、私を頼ればいい。
....、半分こしようか。」
途端にとめどない感情がふわりと軽くなる。
何だろう、これは。
魔法にかかったみたいに周りがキラキラして見えるのだ。
それはそれは御伽の国のよう。
...私は可笑しくなってしまったのだろうか。
「はん、ぶんこ、」
「うん。半分こして、それでも辛かったら2人で乗り越えよう。1人でいるよりは幾分かましだろう?」
「、う、ん。2人で、」
「そう。こうやって、手を繋いで、」
力の入らない手はするすると絡められいく。
指先から伝わる体温は、体全体を包み込むような、そんな不思議な感覚に陥る。
....とても、安心する。
先程の荒れようが嘘のように、感情が落ち着いた。
「....どう?」
「...、太宰は、魔法使いなの?」
「え?」
「だって、こんなに安心するんだもん。」
聞こえるはずもない心臓の音まで聞こえそうなほど静かな空間の中、2人きりずぶ濡れになって立っている。
魔法使いという言葉が可笑しかったのか、彼は口を開けて笑った。
それにつられて私も笑う。
いつの日か笑ったように、声を出し合って。
人きしり笑った後は、照れ臭そうに手を繋ぎ直す。暖かなその体温は、彼がまだ生きているという何よりの証拠である。
それが何故かとても愛おしくて、切ない。
「...さ、帰ろう。」
「...うん、」
手を引かれて、太宰は転がった傘をさす。
少し泥に濡れてしまっているのが気になるけれど、きっとこの雨だったら綺麗さっぱり落ちてしまうだろう。
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「帰ったら、とりあえずお風呂入って寝ようか。」
「そうだね。私寝なくても生きれるけど。」
「...、其処は一緒に寝ようって言うところだろう?」
「あはは、そうなのかもね。」
ーー
散る梅花(完)