第8章 散る梅花(太宰夢?)
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梅雨の季節は毎日ここにいる私に対して、彼奴は此方に来いと誘ってくる。
それはそれは、この雨と同じくらい煩く。
ザッと聞こえてきた足跡に、眉をひそめる。
「....、嗚呼、また来たの?」
誰かと確認せずともわかる。
だって其奴は何時ものように私に傘を差し出してくるのだから。
精神だけなのだから濡れないのはわかっているくせに、こうやって雨から守ろうとしてくるのが毎回うざい。
「...風邪引くよ。」
「引く訳ないじゃん。」
其奴に目線もやらずに只々お墓を撫でる。
...しかし、先ほどよりもなんだか冷たい。
織田作、どっか行っちゃったのかな。
「太宰が来たから居なくなっちゃった。」
「本当に?」
「そうだよ。さっきまでは暖かった。」
お墓が濡れるのを防ぐようにしてさしている私の傘は動いても居ないし、何処かに穴が空いている訳でもない。
何度撫でようと変わらない冷たさに、深くため息をつく。
居なくなってしまった事実がまた胸のあたりが苦しくさせる。息苦しい。
「帰る。」
「何処に?」
「何処かに。」
重い腰を上げて、此奴と反対方向に体を向ける。一瞬此奴の足元が見えてしまったけれど、別に興味はないからどうでもいい。
「柊。」
取られかける腕はスッと空虚を掴み取る。
「織田作に会いに来たならなんかしらかお喋りしてって。その方が良い。」
「柊、待って。」
今度はぐるりと首元に布のようなものを巻きつけてきた。
それはこの季節には不似合いな赤いマフラー。
私はそのまま引き寄せられて、背後から抱き締められる。
....多分異能を使ったのだろう。だからこうして大宰の暖かさを感じることができる。
私はこれが大嫌いだ。
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