第8章 散る梅花(太宰夢?)
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春が終わって梅雨に入る。
梅雨とは人々の心を憂鬱にさせる季節だ。
降り注ぐ雨粒は今日は一段と煩く感じる。私に降りかかる雨も気のせいか少し痛い。
「...、ねぇ、織田作。夏は何しようか。」
ただ1人呟くその声は反響もせず、そのまま雨の音に吸い込まれてしまった。
彼がいなくなってからまだ3年。
....いや、もう3年である。
死んだ時に私はその場にいたのにも関わらず助けることができなかった。
この体では人1人救えもしないのだと絶望したのを今でも鮮明に思い出せる。
血に染まらない手を見てただ呆然とする私に、彼は謝ったのだ。
ごめんな、と一言だけ。
一筋涙を零して息をひきとる瞬間、私は目の前が真っ暗になった。
何故彼が死ななければならないのだ、と。
その原因となった彼の家族だった人は何故死ななければならなかったのか、理由を求めている私に告げられたものは銃弾にも似ているくらい煩いものだった。
いや、正確にはポツリと彼から告げられたのだけれど、私には頭のなかの雑音がうるさくて何を言ってるか理解が数秒、数十秒遅れた。
否定したかったのだ。その事実を。
だけど現実とは何とも酷いもので、私は理解せざる終えなかったのだ。
「...花火また観に行きたいね。
...嗚呼、そうだ。今年は海にも行こうか。」
時が過ぎるのは早いもので、彼が死んでから私の心は澱んだままだ。
暗くて重くて、例えるなら海底で鎖にでも縛られているかのような、そんな感じ。
息が出来ずに苦しい、酸素を求めるけれどそれはもう無い。
「雨は嫌だね。早く止まないかな。」
彼の骨が埋まっているお墓をなぞらえれば、少し暖かい気がした。
なんだか織田作がここに居るみたいな、そんな安心するような温度。
私はそれに目を閉じる。
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