第1章 アルバイトと探偵社さんと(太宰夢)
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「...、でも、今日だけ私の一日一善を働かせてあげます。
マスター!珈琲一杯お願いします!」
少し大きい声でそう告げればコクリと頷いて珈琲カップを用意し始める。
私も皿洗いの手をやめて、サンドウィッチの用意をする。今日アルバイトの先輩はお休みなので、用意してあったメモに目を通しながら作業。
「なんだか気を使わせちゃってごめんね。」
「そりゃあお腹を空かせてる人がいれば誰だってそうします。それに敦さんたちが可哀想です。」
せっせと手を働かせながら会話をする。
もういっそ奢るのだから適当でもいいのでは、なんて思い始めるけど、太宰さんだってきちんとしたお客様。それなりの対応をするのが店員というものだ。
マスターから手渡された珈琲を先に太宰さんに運んでから、再度手を働かす。
「そういえば、敦さんとかはどうしたんですか?」
「うーん、わからない。」
「...放置ですか?」
「あはは、バレたかぁ。」
「いつもそうじゃないですか...、」
会話をしている間に出来上がったサンドウィッチ。出来栄えは上々である。
それをコトリと目の前に差し出せば、太宰さんは目を輝かせた。いつもこういう反応をするけれど、お決まりなのかそれとも毎度毎度美味しそうと思うのかは知らない。
「たんと食べてください。あ、それとこれ。」
ポッケに入っていた500円玉一枚と100円玉3枚をコーヒーカップの横に置く。
確か珈琲とサンドウィッチ合わせて700円弱だった筈だ、と記憶を合致させて計算すればお釣りは100円足らず。
「これで払ってください。お釣りは...、面倒くさいんであげます。」
そう言い残し、私はカウンターに戻って残りのお皿を洗い始める。
「...、見返しとかどうすればいい?」
「...、別に入りません。...あ、じゃあまたこうやってお話ししましょう。それで結構です。」
「それだけ?」
「はい。それだけです。」
....そう、それだけでいいのだ。
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