第1章 アルバイトと探偵社さんと(太宰夢)
ーーーーーーーーー
不思議そうにする太宰さんを見て見ぬ振りをして洗い終わったお皿を拭いていく。
何故それだけでいいのか、なんて聞いて欲しくはない。だって私のその訳は単純明快でいてとても汚いもの。
そう、私はこの人に好意を抱いているのだ。
だからこう汚い手で彼との距離を縮めようとしているし、あれやこれやという彼に構うのだ。敦さんが可哀想なのは事実だけど、それは一つの理由にしか過ぎない。
重要なのは彼が私に借りをしているかどうか。今ので借りを作ったということは、彼は今後もこうして私を構い続けなければならないのだ。
まぁ、多分この気持ちは彼にバレてると思うけど、敢えてバレていない様にしてくれているのは有り難い話だ。
「...、呆気なく死ぬ、なんてことは許しませんからね。」
「勿論。私の夢は美女との心中だ。」
「その夢が叶うまでは私も此処で働いてると思います。」
「叶った後は?」
少し、濁った様な瞳を向けてくるのはやめて欲しい。だって、叶った後なんて貴方が死んだ後の話な訳で。
まるで、これから先いつぽっくり逝くかわからないと言われてる様なものだ。
それを考えるだけでも苦しくなるのに、こんな話をするなんてこの人は確信犯である。
「叶った後は、...、自分の目で確かめてください。」
「えー、ソレは中々に厳しいね。」
「そうですね。幽霊になって、此処のお手伝いを一生するんです。」
半年分のお会計が終わるまで、なんてことはあり得ませんから。
と付け足せば、彼はにっこり笑って一口珈琲を飲んだ。その後何故かまた可笑しそうに笑って「それはおっかない。」と口にする。
その声は、私の心を緩ませるには充分で。
一生私とここで働く、なんて夢をみせないつもりでいる彼に、私は密かに息を漏らした。
ーーーーーーーーーーーー
アルバイトと探偵社さんとー完ー