第6章 初めての感情です(中原夢)
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「...、す、すみません、あの、喋り過ぎてしまって...。」
普段よりも高くなってしまうその声は、明らかに動揺が見えてしまっている。
中原さんがどんな顔をしているかなんて想像をしただけで冷や汗をかいてしまいそう。
彼のたったの一言を待つのにこんなにもビクビクしてしまう事は今が初めてだ。
「....、柊。」
「は、はい......、っ、」
突然名前を呼ばれてビクつく私に感じられたのは、頰に触れる何か。
柔らかくて、生暖かいもの。
そしてその後に肌ではない何かに包まれたような変な感覚に優しく頰を撫でられる。
「....言っておくが、こんな事するのは柊だからだぜ?」
なんて言って、彼はくしゃりと笑ってみせる。
その表情を見てきゅうっと締め付けられるのは恋に落ちたから、なんて事有ってたまるものか。
こんな一瞬で落とされるなんて、まるで私が軽い女みたいだ。
しかしそう思ってはいても、実際のところ本心は真反対のようで、完全に彼に堕ちてしまっていた。
高鳴る鼓動を抑えつけようにも、まず顔が、体全体がとても熱くなっていて対処しようにももう手遅れだ。
...こんなにも簡単に堕ちてしまうなんて、今まで考えたこともなかったし、それに彼が頰にキスすることなんて予測がつく筈もない。
恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ち、他諸々の感情が入り混じってよくわからなくなってしまった。
両手で真っ赤であろう顔を覆う。
...とりあえずの応急処置だ。
「...、な、中原さん、」
「なんだァ?もう一回か?」
「ち、違いますよ!!」
更に恥ずかしさを重ねてくるものだから、もう勘弁してほしい。
大体此方はこういう言葉は不慣れだし、圧倒的に中原さんが有利だ。
これ以上弄られないように中原さんに背を向ければ、背後から笑い声。
「拗ねんなって...、柊、顔見せろ。」
「い、嫌です..!中原さん面白がるから絶対向きません!」
「別に笑いやしねぇよ...、ほら。」
クルリと椅子を回されて、強制的に体の向きを変えられる。
そして同時に中原さんも私と向き合う形となったのが指の隙間から見えてしまった。
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