第6章 初めての感情です(中原夢)
ーーーー
その一つ一つの動作さえカッコいいと思ってしまう辺り、多分私もだいぶ酔いが回ってしまっているのだろうに。
「はぁ...んで、手前はどんな奴がタイプなんだ?」
「た、タイプ、ですか..?」
「良くあんだろ?優しい人やら金持ちやらよォ。」
「...、そうですねぇ...。」
好きなタイプ、これもまた女子の会話の中では盛り上がる話。
今中原さんが言ったように、優しい人やお金持ちがいいと言えたら良いのだけれど、この世の中誰の何処か優しいのかなんて、付き合わないと見分けがつかない。
昔の人ならもっと純粋で初々しい恋ができていたのだろうが、生憎ここでは人間の裏返しが酷いものだから、少しでも一緒にに過ごしてみないとわからないのだ。
そう考えると優しい人、なんてオーバーな答えは出来ない。
次はお金持ちだが、これは幾ら何でも優しい人よりもオーバーだ。場合によってはビッチやらなんやら思われてしまいそうなのでそれも却下。
其れならば、私のタイプとは何なのか。
キラリと光るグラスの淵をみて、何故か自然と言葉を吐いた。
「....、私のことを愛してくれる人ですかね。」
オーバーでもない、ただ何となく出た言葉。
これが多分、私の本心である。
カランと鳴ったのは、私のグラスの中の氷が溶けてぶつかり合った音。
やけにその音が耳につく。
「付き合ったことないんで良くわからないですけど、本当に私を好きで居てくれる人なら、私も好きになれる気がするんです。
け、結構自分勝手な話ですけど...。」
あはは、と私が苦笑いをした後に訪れたのは静寂。
完全な静けさではないけれど、私と中原さんの間には音が一切なくなった。
其れに少し気まづくなる。
....少しでしゃばり過ぎてしまっただろうか、もしくは今の話を聞いて引かれてしまっただろうか。
私の中で一気に広まる不安は、だんだんと膨張していく。
他人から嫌われるのは誰だって怖い事であり、しかも中原さんにまで引かれてしまうとなると恐ろしくて仕方がなくなる。
ーーーー