第4章 電車はやめよう(中原夢)
ーー
「あぁ、こすったら余計に赤くなっちゃうよ。...、そうだ、これ使って。」
拭くものはないかと考えていたら、先程の駅に向かう途中で配られていたティッシュを貰っていたのを思い出した。
ポケットを漁れば直ぐに見つかったので、それを開けて女の子の涙を拭いてやる。
よく見ればとても可愛い顔をしていて、あどけなさが残るけれど将来は美人さんになりそうだ。
こんな子にあんな下卑な事をしていたと考えると一発顔面を殴るだけじゃ足りないくらいイラついてくる。
女の子が落ち着くまでそばに居てやりたい気持ちが大きかったが、生憎私は次の駅で降りなければならない。
駅のホームが近づく中、残りのティッシュを女の子に差し出して頭を撫でてやる。
「怖かったよね。今度からは周りに気を付けて乗りな。」
「は、はい..!あの、お礼とか...、」
「あはは、律儀だね。そうだなぁ...、君可愛い顔してるんだから泣き顔より笑顔でいなよ。それだけでいいからさ。」
と、何故か捨て台詞みたいなことを言ってしまったけれど、女の子は嬉しそうに笑った。
其れを横目に私は電車を降りる。
そのまま電車は発車して、女の子を乗せて次へと走っていった。
それを見送っていると、いつの間にやら隣に中也が不機嫌そうな顔で立っている。
「...、何があったんだ?」
「....可愛い女の子を笑顔にさせてた。」
「何だそりゃぁ..?」
中也にはわからなくていいんですー、と自慢げに歩みを進めれば、隣でカツカツと男性が履くものにしては少し高い靴を鳴らす。
その靴と帽子のせいか少しだけ中也の方が背が高くなっている。生憎私はヒールを履くのを好まないので、いつもスニーカーなのだ。
そのため、いつも中也よりも少し小さい。
ほんの少しだけ、だけど。
「中也帰ったら何するの?」
「取り敢えず晩飯だろ。」
「あ、ご飯家にないや...。今日泊まらせて。」
「...女が軽々しく男の家くんじゃねぇよ。」
「とかいって泊まらせてくれるんでしょ?優しい〜!よっ!男前!」
「調子に乗んなよ手前。」
少し調子に乗らせるつもりが、更に不機嫌になってしまった。
ーー