第4章 電車はやめよう(中原夢)
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私の場所からそう遠くない場所にいるけれど、この状態で中也のいるところまで行くには無理だろう。
とりあえずSNSで連絡を取り合ってみようと携帯を取り出そうとした途端、電車が大幅に揺れて取ろうにも取れなくなってしまった。
「(...なんでこう言う時に限って人多いんだよ...。)」
揺れに耐えようとつり革を探すも丁度掴めない位置で、足の体幹だけで耐えるしかなくなった。
「...っ、ぅ、」
そんな時にふと、小さく聴こえた悲鳴。
其方に目線をやれば、私よりも遥かに小柄な女の子が今にも溢れそうなほどに涙を溜めていた。
その女の子の後ろには、ぴったりとくっついた中年の男が立っていた。やけに息遣いが荒い辺り、痴漢だろう。
周りの人は気付いてるくせに無視を続けていた。面倒ごとに関わるのはご免だということだろう。
私も何方かと言えば面倒ごとに関わるのは嫌だけれど、助けも求められずにいる少女を助けない訳にもいかない。
此処は、私と位置を変えた方が女の子も逃れられるだろう。
「あの、苦しくないですか?こっちの方が空いてますよ。」
「..、ぁ...、」
恐怖で強張って動けないであろう女の子の肩を引き寄せ、痴漢らしき人を私の背にしてぐるりと体制を変えた。
強制的に動かさないとこの子もただ曖昧に返事をして終わるだけだろうし。
こういう時にハンカチを持っていれば涙を拭くことなど容易い事だが、生憎そんなものは持ち合わせていない。
後ろの奴は舌打ちをして、次の駅で降りて行ってしまった。
警察に突き出しても良かったのだけれど、この人混みがごった返すところだと逃す可能性もある。
取り敢えず一難去ったところで女の子に話しかける。
「...、大丈夫だった?」
「っ..、ぁ、ありがとう、ございます...!」
女の子は礼を言いながらゴシゴシと涙を服の袖で拭くけれど、安心したからなのか止めどなく溢れていた。
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