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いとし、いとし【短編集】

第4章 真っ直ぐな彼【krk 早川充洋】


私達はお付き合いをはじめて、日が浅いわけでもない。

それでもバスケ部の彼はインハイで忙しく、ゆっくり過ごすような時間も無かったのでデートらしいデートはこれがはじめてだ。


不馴れな浴衣で、いつもより混み合った電車内に乗り込む。

人より大きな彼は、私が人に埋もれないように、しっかりと庇ってくれていた。


「混んでますね。大丈夫ですか?」

いつもより近い位置で頭上から降ってきた言葉に、

「大丈夫」

と短く返事をする。

「お(れ)に捕まっててください」

その言葉に甘えて、彼の腕をそっと掴んだ。



バスケ部の皆や、妹と小堀も近くに居るんだろうけど、私からではどこにいるのか分からない。

見えるのは、充洋くんのシャツの色だけだ。





しばらく電車に揺られて、

やっとの事で目的の駅に到着して、

「着きましたね。お(り)ましょう」と言う彼の言葉を合図に掴んでいた腕を離すと、

タイミング悪く、私は人波に押されてしまった。



「結依さん!」

充洋くんが手を伸ばしてくれるけど、その手を掴み損ねる。


人波に押されるまま、
ホームへと弾き出され、
人波に呑まれるまま、
改札へとたどり着いてしまった。


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