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いとし、いとし【短編集】

第43章 12月3日 帰り際【krk 水戸部凛之助】


「水戸部くん、今日お誕生日?」


頭に浮かんだ可能性を問いかけると、今度は少し照れた様に微笑んでコクリと頷いた。

そっか、
お誕生日なんだ…。

「バスケ部の皆にお祝いしてもらったの?」

再び問いかけると、ニッコリと笑って頷いた。
すごく、すごく嬉しそうに。

本当に表情が豊かな人。

「そうなんだ。じゃぁ、これ使って!!」

鞄の外ポケットに忍ばせていた、買ったばかりで、未使用の小さなキャラクターを手渡す。

不思議そうにコテンと首を傾げる姿は、大きな身体に似合わないハズなのに何故か可愛らしいく見えるのは水戸部くんだからだろう。

「背中のファスナーをあけてみて」

私がそう言えば、言われた通りにファスナーをつまみ上げ、ジジッーと音をたてて開く。

そこを開ければもう、これが
何なのかは理解したようで、中身を取り出し、目の前に広げた。

「エコバックなの。よかったら、プレゼント持ち帰るのに使って」

私の言葉に彼はフルフルと首を横に振る。

『受け取れない』と言わんばかりに…。

「いいの。私からの誕生日プレゼントって事で。もらって?」

今度は眉を下げて困った顔をされた。

「気にしないで。もし、水戸部くんがどうしても気になるなら…私の誕生日は1月だから、お返し楽しみにしてる」

この言葉には納得してくれた様だ。

ニッコリと笑ってコクンと頷いた。

本当、喋らない人だけど、言葉が表情に出てくる人だ。

彼を見ていると、なんだか穏やかな気持ちになる。

「水戸部くん。お誕生日おめでとう!!」

静かに微笑む彼から『ありがとう』が聞こえた気がした。



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