Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第4章 「月」THE MOON
『ハムレット』などの悲劇に対して、シェークスピア(Shakespeare)のファンタジー喜劇であり、メンデルスゾーン(F. Mendelssohn)の「結婚行進曲」で有名なのが、かの超大作『真夏の夜の夢』である。「この名高き標題を、悪趣味な性嗜好に弄(もてあそ)ぶのは、偉大な先人に対する冒涜(ぼうとく)も甚(はなは)だしく、到底許されるべき行為ではない!」…などと、寿能城代が以前一人でイキり立っていたが、そんな事は誰も気にしない。
斎宮「『アプリコーゼン ハムレット』か、何とも微妙なネーミング…」
生田「でも、僕達の『秘密基地』には、丁度良いかも知れないよ?地味だからこそ、目立たないし」
塔樹「潜入して見る価値はなきにしも非ず、だ」
「アプリコーゼン」と仮称する事にした木造廃墟を、各々の武器を構えながら調査する一行…だが、「先客」と遭遇するまでには、多くの時間を要しなかった。
生田「待って、奥に誰か居る!」
塔樹「食人種かも知れない、いつでも交戦できるようにしておけ!」
斎宮「了解! おい、誰か居るのか?」
言語による返事はなく、代わりに銃声が返って来た。
斎宮「撃って来たぞ! 大允、発砲許可を!」
生田「了解! 撃ち方…」
塔樹「いや、待て! 小銃を扱えるという事は、中に居るのはヒトだ。食人種ではない」
生田「交渉してみる?」
斎宮「ああ…中の人、俺達は敵じゃありません! 助け合って、共に生き残りましょう! 水とか生活アイテムも結構あるんで、分ける事もできますよ?」
すると今度は、日本語の返事を聴くと共に、奥から二人ほどの気配を感じ始めた。
﨔木「…水、ですか? この情況下で生き残るためには、一日に約60ℓの水が必要ですよ」
天満「いや、それは多過ぎだろ」
二人の姿を目にした一行は、ただただ驚いた。そして、頭を整理しながら口を開く。
生田「あ…あなたはまさか、第三中隊のエリート将軍、美保関大宰少弐様ですか…!」
斎宮「み…美保関少弐? 御台場の戦いで『戦場の文殊菩薩』と讃えられた英雄にして軍神が、何故こんな所に…?」
﨔木「美保…あなた、自分の戦績を15センチ盛ったでしょ?」
天満「いや、それは皆が勝手に考えた伝説だから…て言うか、60とか15とか46とか、長門は毎回どこから適当な数字を持って来てるの?」