第6章 信頼
「その微妙な重なりを、ヒトは運命と呼ぶのだがな。」
アヴェンジャーの声が、崩れかけたこの部屋の中で、不思議な響きでもって反響する。
「うん、めい……?」
私はその響きを、自分の口で確かめるようにして、繰り返した。
私の口は、しばらく言葉を忘れたかのように、何も言えなくなった。――――――『運命』、何とも言えない、強い響きを持った言葉だと思った。微妙な偶然の重なり、それが、『運命』なのか――――。それじゃあ、今、ここに私とアヴェンジャーがいることも、『運命』なのかな。そんなことを考えると無性に恥ずかしくなって、頭を左右に思いっきり振って、思考を振り払った。
「とにかく! 私は、アヴェンジャーに、感謝してるっていうだけ! ……私は、魔術師としても半人前だし、それに……。」
ここにレイシフトする時にはぐれた、5人の顔が頭の中に浮かんでは、消えた。あぁ、駄目だ。やっぱり、これは堪(こた)える。このミスは、挽回できるものではない。ごめんなさい、アルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ、メディア。私が、マスターとして至らないばかりに、貴方たちの大切な霊基(からだ)を……。
「……今回のこと……で、マスターとしても、……っく、……ふ……、不甲斐(ふがい)無い……って……。……っぅ、ぐ……!」
今まで我慢していた涙が、また溢れてきた。皆は、今までの旅でも、訓練でも、ほんの数日前までだって。こんな未熟な私を信じて、笑顔でついてきてくれていたのに。その信頼を裏切るようなことをしてしまったことが、こんなにも辛い。涙が止まらない。ううん。泣いているだけの自分のことだって、今どうしようもなく、嫌。だって、本当に辛い思いをしたのは、間違いなくあの5人だ。