第21章 第3部 Ⅶ
「また、このような深い場所まで落ちてきたのか。物好きだな。それでこそお前ではあるが……。もう此処には何もない、帰れ。」
「キミは、また……、ひとりで……?」
「……。」
「なん、で……?」
「悪夢は去った。お前が起きる頃には、そうさな。“悪夢を見た”くらいの実感しか、残らぬだろうよ。」
「いつも、こんな場所で、たったひとりで……?」
「……。」
「……、それは、」
「詮無きことだ。お前がもっと気に掛けるべきことは、他に在ろう?」
「……、でも」
言い淀む共犯者の姿は、オレには随分と眩しいモノに見えた。
「あぁ、であれば。……火は、持っているか? お前に預けていた、な?」
「……うん。」
共犯者は小さな火を、オレへと差し出す。その炎が俺の魂魄(こんぱく)を照らす。お前が契約している、外套の男。その姿を取ると、我が共犯者は幼子のように目を輝かせた。
ゆっくりと、葉巻を吸っては、息を吐き出す。
共犯者は、オレが吸い終わるのを、何をするでもなく、じっと見ていた。
「ごめんね。今回は、間に合わなかったみたい。一緒に戦いたかったな。」
「莫迦を言え。それはお前の仕事ではない。」
「……でも、」
「嗚呼、……どうしてもお前の気が済まぬと言うのならば、だ。」
「うん。」
「俺は随分と、魔力を消耗していて、な。ご覧の通り、霊衣もボロボロの有り様だ。魔力の供給は可能か?」
共犯者の頬が、朱に染まる。
「……ク、クク。いや、冗談だ。」
言い終わるかどうかというとき、素早く唇が重ねられた。どうやら、共犯者の方から、俺に唇を寄せてきたのだと、瞬時に理解する。
であればと、オレは共犯者の背中に手を回し、今度は此方からもその唇を貪った。共犯者の息が上がってきたところで、そっと唇を離す。