第21章 第3部 Ⅶ
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ブラジャーは取り外して、柔らかな素材の部屋着に着替えて、ベッドへと入る。アヴェンジャーは、デスクに備え付けてある椅子に座って、時々此方へと視線を向けてくる。
「ゴメンね。何だか私、少し情緒不安定みたいで。」
「構わん。あれほどの光景を見たのだ。無理も無かろう。アレは、魂の疵(きず)になる。安息も必要であろうよ。」
ふと思った。アヴェンジャーは……、今までに、一体どれほどのモノを見てきたのだろうか。いつもは重苦しいまでに霊衣を着込んでいて、およそ露出部分など顔ぐらいしかないアヴェンジャー。しかし、その服の下は、傷だらけだ。正確には、傷跡なのだが。一体、どれほどのことがあれば、あれほど満身創痍になるのだろうか。私も、細かい傷なんかはハッキリとは覚えていないが、普通の疵っぽくない、そもそもの皮膚の色すら変色している箇所もあった。火傷、だろうか? 或いは、何かの薬品? いずれにせよ、きっとすごく、酷いことがあったんだと思う。
「ううん。よく考えたら、アヴェンジャーの方が、よっぽど怖い思いをしてきてるんだよね。」
「莫迦を言え。俺はサーヴァントだぞ。ニンゲンなぞと比べるな。」
アヴェンジャーは、呆れたように溜め息を吐いた。
「その……、シェイクスピアの宝具で、はっきり見ちゃって。その傷、生前についたモノだよね。サーヴァントになっても、消えないんだね。」
「むしろ、サーヴァントになったからこそ、消えん。この傷は、もはや俺を構成する一部として確立してしまっているのだろうよ。幾ら召喚を繰り返されようとも、必ず再現される。」
サーヴァントの肉体は、魂が再現されたものに他ならない。それはつまり、その傷は魂にまで深く刻み込まれているということだ。
「――――――。」
目を閉じる。一度、空気を深く吸い込んで、静かに吐いた。