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恩讐の花嫁 【Fate/GO 巌窟王 夢小説】

第21章 第3部 Ⅶ


 恐らく、近くにいてもギリギリ聞き取れないぐらいの声で、私は望みを口にした。随分と、身勝手な願いだという自覚はある。それでも、口に出さずにはいられなかった。
 本当を言えば、少し精神が落ち着かない。レイシフト先で危険にさらされることには慣れているし、理不尽な場面に遭遇することだって、決して少なくない。人が惨殺される場面だって、――――――見てきた。その度に、ドクターやマシュ、ダ・ヴィンチちゃんたち、サーヴァントの皆が優しく癒してくれたり、励ましてくれたりして、私は何度だって乗り越えてきた。でもそれは、私の精神が人並み外れて屈強だということではない。私だって普通に傷付く。私は、この私は――――――なんでもない、ただのありふれた、普通の人間だ。あの女の子たちは、誰も殺されてはいない。梅毒に侵された女性たちだって、すぐには死なないのだろう。でも、あれは、酷いと思うのだ。向こうにいた時は、意識的に考えないようにしていたけれど、あれは、ある意味では殺される以上に、辛いことだと思うのだ。私は、アヴェンジャーによって、助けられた。アヴェンジャーは、私が本当にピンチの時に、絶対に助けてくれる。でも、あの子たちは、当然のように犯された。あの女性たちは、当然のように捨て置かれた。それを感傷の種にしている私は、あの人たちからすれば、身勝手なのかもしれない。きっと、偽善者そのものなのだろう。この感傷に、もはや何の意味も無い。それでも、私の内に、ひっそりと溜まり続けていく。

「……、柄にも無い、よね。ごめん。」
 今度は、先程よりは大きめの声で、それでも語尾は消えかかっていた。

「お願いだから、今夜は……、今夜はひとりに、しないで……。」
 知らず、私の目には涙が滲んでいた。



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