第21章 第3部 Ⅶ
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嫉妬だとか、そういった感情は。それは、私には難しい感情だった。それでも、ただ嫉妬するだけならば、それは私だけの問題だ。ひとりで何とかすればいい。でも、私の下らない嫉妬心が、大切な人を傷つけたのならば、事態は途端にややこしくなる。どうやって対処したらいいかなんて、到底分からない。
私は、アヴェンジャーの個室で、椅子に座っている。手には温かいカフェオレ。アヴェンジャーが淹れてくれたものだ。口を付けると、苦みと甘みが口と鼻いっぱいに広がった。
「美味しい……。」
小さなマグカップは、私の両手にすっぽりと収まる。両手から伝わる熱が、冷え気味の体に丁度良かった。
「落ち着いたか?」
アヴェンジャーは、少し離れた場所で、コーヒーを啜っている。
「うん。ありがとう……。それに、あったかい。」
「そうか。」
アヴェンジャーは、静かに返事をした。
「飲み終えたら言え。部屋まで送っていく。」
アヴェンジャーは、手にしていたコーヒーカップを置くと、此方を向いた。……とりあえずは、いつも通りの顔で。
「うん……、ありがとう……。」
何だか、このままマイルームへ帰るのも、どこか寂しいような気もして、私はちびりちびりとカフェオレを飲む。……身勝手なものだ。私は。
いっそ開き直ることが出来れば、それはそれで幸せなのかもしれないが、私の神経はそこまで図太くもない。軽く息を吐いて、カフェオレを飲むペースを上げた。
「ごちそうさまでした。ミルク多めで、美味しかったよ。」
「そうか。」
「別に、カルデアの中だし、ひとりで帰れるから、気持ちだけ貰っとくね。おやすみなさい。」
「いや。送っていこう。お前は女性、なのだしな。」
「はは、改まってそう言われると、なんか照れるね。そう言われちゃ、送ってもらうしかないね。」
アヴェンジャーの個室を出て、マイルームへ向かう。短い道中、私たちは何も喋らない。アヴェンジャーは、私の横を歩いて、時々此方の様子を窺っているような雰囲気を出す、それだけ。私は、何を喋っていいのかも分からないから、喋らないだけ。