第20章 第3部 Ⅵ ※R-18
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私が目を開けると、血塗れの和服に身を包んだアヴェンジャーが、ノストラダムスと、シェイクスピアを追い詰めていた。その足元には、寵姫のドレスを身に纏った、木製のマネキンが転がっている。その光景が、これ以上ないぐらいにシュールだった。ドレスは既にその半分ほどが焼け焦げて、用を為さなくなっている。アヴェンジャーの服も、宝具の効果が切れたためか、伯爵の服ではなかった。返り血で赤黒く汚れているばかりか、度重なる戦闘によってボロボロになっている和服を身に纏っていた。
「ク、クク……! クハハハハハハハハハハ!!
ハァ―――ッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
アヴェンジャーの心中は察しきれないが、腹の底から笑っているということだけは、理解できた。
「ク……、クク……。懐かしい……、地獄の味がする―――――。
復讐を完遂し、相手を屠る―――――、この刻に勝るものは無い。
復讐を完遂してこその“復讐者(アヴェンジャー)”であろう―――――?」
黒い炎が、アヴェンジャーを包む。その姿はまさに、黒き怨念、復讐の化身に他ならなかった。
「いや、流石は世界に名だたる復讐鬼! 吾輩も、感服いたしました! ですが、エドモン・ダンテスは、最後に1人の仇敵を見逃し、愛によって救われたと! ……して、吾輩は召喚主に操作されていただけですし、今からでも銀行家役を演じましょうぞ!」
「ぐ……! この世に滅びあれ……! 人類に滅亡あれ……!」
2人は、好き好きに喋っている。
「……マスター。」
アヴェンジャーの低い声。その声はドスが利いていて、恐ろしいものだった。
その顔は私の立ち位置からは見えないものだが、尻もちをついたような姿勢でアヴェンジャーを見上げる2人の表情からは、ありとあらゆる表情が消え失せていた。
「―――――この事態を引き起こしたサーヴァントを、倒せ。」
私の言葉と同時に、恩讐の炎が周囲一帯を灼(や)く。
いかなる抵抗も防御も、その炎の前では意味を成さない。絶対的な、破滅の炎。炎は煌々と燃え盛り、火柱となった。自己保存スキルも使い魔も、この大火力の前には、その全てが灰燼となる。
私は、その光景を、ただ見つめていた。