第20章 第3部 Ⅵ ※R-18
「伯爵様。此処までの長旅、御苦労様でございました。」
寵姫は、自らが口付けたその手に頬を寄せる。
「あぁ……。」
伯爵は、小さく息を吐いた。
「こんなにも傷だらけになられて……。さぞかし、お辛かったことでしょう……。」
寵姫は、長い睫毛をそっと伏せ、はらりと涙を零した。
「寝台で横になられては……?」
「あぁ……。」
伯爵は、寵姫に促されるままに、やわらかな寝台へと、その身を横たえた。
「わたくしを……、お傍へ招いてくださいますか……?」
白く上品な頬を薔薇色に染め、寵姫は静かに微笑んだ。
「あぁ……。来い、エデ。」
「はい……!」
寵姫が身に纏っていたヴェールはひらりと翻り、床へと落ちた。
寵姫は、広い寝台へ乗り上げると、仰向けになっている伯爵の横へ、腰を下ろした。
「伯爵様……。」
寵姫の白い指先が、伯爵の傷跡を滑る。
「さぞかし、痛い思いをなさったことでしょう……。わたくしは、今となっては、愛する父を亡くしたことよりも、伯爵様がお辛い思いをされていることこそが、何よりも辛いのです。」
寵姫は、伯爵の腹部を、手の平で優しく撫でた。
「伯爵様がそのような思いを抱かれるぐらいならば、いっそわたくしがお代わりしたいと、そう望んでいます。」
「……。」
伯爵は、焦点の定まらない目で、天井を見つめている。
「でも、それは叶わぬ望み、過ぎた望みであると、重々理解を致しております。」
寵姫は、哀しそうに微笑んだ。
「ですから、せめてわたくしが、伯爵様を癒して差し上げることができれば……と、そう願わずにはいられないのです……。伯爵様……、どうかわたくしを……、受け入れてくださいませ……!」