第20章 第3部 Ⅵ ※R-18
場面が瞬時に切り替わる。
―――――私は、この場所を知っている。薄暗く、どこからか鼻を突くような嫌な臭いがする、牢獄。時間の感覚や、天気とかいった、そういった諸々の要素が、この空間の中では、およそ意味を成さない。じめじめとした湿度が、肌にまとわりつく。それに加えて、異様なまでの寒気が走る。べったりとした、漠然とした恐怖のような感情が空気中に溶け込んでいて、呼吸をするたびに、精神が侵されていくような錯覚さえも覚える空間――――――シャトー・ディフ。
そこには、かつて見た、ファリア神父の姿があった。全てを慈しむような、温かな眼差し。しかしてその眼には、聡明さを示す叡智の光が宿っている。
「エドモン―――――、我が息子よ。」
薄暗い監獄塔の牢獄。『エドモン』――――そう呼ばれた青年の肌からは、血色がすっかりと失われており、蒼白い幽鬼のようですらあった。陽の光を受けて、茶色く輝いていた髪は、白髪交じりだ。髪自体も中途半場に伸びており、手入れがなされているとは言い難い有様だった。
『ファリア、神父……。』
以前に会った時と、寸分違わぬファリア神父の姿。アヴェンジャーの――――――いや、エドモン・ダンテスの真摯な双眼が、ファリア神父へと向けられる。その瞳には、僅かばかりの惑いが滲んでいた。
(――――――まさか……!)
ここに来て、私はハッとした。
宝具に囚われたのは、私じゃなくて――――――!
『アヴェンジャー! 聞こえる!? ねぇってば!!』
私は、必死になって叫ぶ。目を覚まさなければ、アヴェンジャーはこの劇の中に取り込まれてしまう。それだけじゃない。もし、本当に取り込まれてしまえば、宝具が解除された時に、無防備な状態になってしまう。それだけは、絶対に阻止しなければ……!
『目を覚まして! アヴェンジャー!! アヴェンジャーってば!! ……ッ!』
アヴェンジャーに、私の声は聞こえていない様子だった。どうしよう……。どうすればいいんだろう……。