第19章 第3部 Ⅴ
「ははは。善良なお嬢さん。ここは自らのサーヴァントに従うべきでしょうな。『Which,like the toad,ugly and venomous.』しかし、彼らの頭は宝石など孕んではいないのですから!」
「? ? ?」
ますます以って分からない。
「いえいえ、簡単な話ですよ。人間の体の内、神経が集中している箇所はどこでしょう?」
「……。…………。――――――――あ……!!!!」
――――――そうだ。簡単なことだった。人間の神経が集中している箇所なんて限られている。それはズバリ、脳、そして首だ……!
「なァに。痛みなど感じさせぬ。」
そう言って、アヴェンジャーは黒い手袋を再び嵌め直した。
私は、言われた通り、土壁の辺りまで下がる。
「そうだ。目を閉じて、下を向いていろ。金輪際、目など開けてくれるなよ。随分と原始的な方法だが、今の俺には此れが最も効率が良かろうとは。」
そう言ってアヴェンジャーは、乾いた笑い声を漏らした。
微かに感じた、風圧。アヴェンジャーが、敵に飛び込んでいったのだろう。
「――――はァッ!」
―――――ぐちゃり、べちゃり。
生々しい音が聞こえては、その場に崩れていく音。崩れていく、ドスンという音が、妙に心臓に響く。その音は、断続的に、規則的に聞こえてくる。最初はその音を数えていたが、2桁に上った時点で、私は数えるのをやめてしまった。腐敗した臭い、血の臭い。その臭いは、どんどん濃厚になっていく。
「ぅ……ッ……。げ、けほ……っ。」
あまりにも強烈な臭いに、吐き気が襲ってきた。私は思わず、その場にしゃがみ込む。ずっと戦い続けてくれているアヴェンジャーには申し訳ないけれど、いよいよ限界だった。
「マスター、終わったぞ。」
「ぁ……。」
私は、壁に手を当てて、自力で立ち上がった。アヴェンジャーは、黒い返り血を浴びており、その白銀の髪も、所々汚れていた。血の滴る手袋を脱ぎ捨て、その場で燃やした。その瞳は、いつもと変わらず、黄金色に燃えている。アヴェンジャーの背後では、黒い炎が静かに燃えていた。死体を焼き払っているのだろう。しばらく経って炎が鎮まった頃には、何も残っていなかった。