第17章 第3部 Ⅲ ※R-18
「……ッ!」
意を決して、刃先を手首の上で滑らそうとしたところで、大きい手が私の腕を掴み上げた。しかし、その力は、普段のアヴェンジャーとは思えないぐらいに、弱い力だった。
「アヴェン、ジャー……?」
「……ぁ、やめ、ろ……。」
「なんで?」
「……ハァ……、ハァ……。」
アヴェンジャーは、返事を口にすることなく、代わりにゆっくりと、首を左右に振った。
「でも、このままだと、アヴェンジャーが……!」
「……此処の衛生状態で、その手段は……、ハァ……、ハァ……、自殺行為だ……。」
「で、でも……!」
このままでは、間違いなくアヴェンジャーは消滅する。視界が滲む。私は、泣きそうになっているらしい。もう、二度とアヴェンジャーを失いたくないのに……!
「じゃあ、どうすればいいのッ!!? もう、もう二度と、エドモンを失いたくなんて無いのにっっ!!」
私は、泣き叫んでいた。
「ねぇ、私、どうしたらいいの……!? マスターとして、何ができるの……!? 教えてよ……っ!!」
布団の上で仰向けになっているエドモンに、私の涙が落ちる。
「ぁ……?」
エドモンの右手が、ゆっくりと私の頬に伸ばされる。そして、これ以上ないほどにゆっくりとした仕草で、その指先で私の涙を拭った。
「……お前に、赦しを貰えるのならば、」
「……ぇ?」
エドモンの腕が、ゆっくりと私の首へと回される。そしてそのまま、引き寄せられる。私は、咄嗟にバランスを取ろうとして、エドモンの頭のすぐ横へ、手をつく。
「……っ!」
かぁっと、自分の頬に熱が集まってくるのを感じた。でも、それ以上に、エドモンの顔は青ざめている。私はもう、胸が潰れそうだ。
「もし、俺に……醜い恩讐の化身に、復讐鬼に、」
エドモンの手が、私の髪を梳く。
「その身を、魂を委ね、この炎に灼(や)かれる覚悟があるのならば……」
耳にかかる、柔らかな声。
その囁きには、確かに熱が籠っていた。
私の魂を蕩かせる、甘い吐息だった。
ううん、私の答えは、とっくに決まっていた。