第16章 第3部 Ⅱ ※R-18
「アレを見ろ。」
低く、押し殺したような声で、囁かれる。
アヴェンジャーに示された方向を見ると、そこには、1組の男女がいた。
「……!?」
その男女は、浮世門から少し外れたところ、ほんの少し塀が壊れて低くなっているところに縄をかけて、よじ登ろうとしている。
「……あれって……?」
「恐らく、脱走しようとしているのだろう。」
アヴェンジャーは、静かな声で答えた。
男性は、明らかに武士然とした身なりだ。一方の女性は、化粧っ気もなく、簡素な服だった。
「あれは……、娼婦だな。」
アヴェンジャーは、そう断言した。一見すると、どこかの店の売り子のような服を着ている。だから、遊女かどうかなんて分からないじゃないか、そう思った。
「いたぞ、お七(おしち)だ!」
遠くから、バタバタと足音が聞こえてきて、辺りは一気に騒然となった。
浮世門の近くにあった小屋からも、一気に5人以上の男性が出てきて、男女の真下を取り囲んだ。そこからは早かった。下から石を投げられ、男女は縄から手を離してしまい、地面へと落下。
「この遊郭から逃げられると思ったか!? 馬鹿め!」
門番の男性がそう吐き捨てるとともに、男女は別々に連行された。
「女は折檻部屋だ。男は、見せしめに処刑だな。」
数分と経たないうちに、辺りは静寂を取り戻した。そして、しばらく後には、物資を運んでいるらしい男性が、浮世門の外から荷車を運んできた。
「あそこの門以外に、外へと通じる出入り口は無いのかな……?」
“折檻部屋”に“処刑”。ゾッとする言葉を聞いて、恐ろしい気分に襲われるけれど、ぐっと堪えて、アヴェンジャーを見る。
「少し待っていろ。此処から絶対に動くな。」
アヴェンジャーは、私にそう念押ししてから、霊体化した。