第15章 第3部 Ⅰ ※R-18
―――――――本気で、血の気が引いた。ここは、地獄だ。
「あんたにも、もうすぐお客が来るからね。楽しみにおしよ?」
そう言って、初老の女性は、部屋を出ていった。
―――――――冗談じゃない……!
震える膝を、ピシャリと叩き、出口へと駆ける。こんな場所、たとえ夢でも、嫌だ。逃げるしかない。そう思って、廊下に出たその時だった。
「どこへ行く?」
先ほどの女性とは違うが、それよりもさらに年齢が上であろう女性に見つかった。その後ろには、ガタイの良い中年男性が5人ほど控えていた。これでは、逃亡なんて不可能だ。本気で眩暈がした。そうこうしているうちに、廊下からこちらへ、1人の男性が歩いてきた。
「……。」
明らかに、私へ近づいてくるその男性は、どう見ても50歳は超えていそうな、脂ギッシュな壮年の男だった。歯はところどころ抜け落ちており、その顔面は脂でテカっている。私だってそんなに美人ではないが、そんな私から見たって、壮年の男はどう足掻いたってブ男だ。カルデアでは、やれ黒髭がキモイだの、カエサルの脂肪分がひどいだの言われているが、それだって可愛らしいものに思えてくる。(というか、黒髭もカエサルも、英霊だけあって、基本的に顔なんかは整っている。)兎にも角にも、筆舌に尽くしがたいほどに、壮年の男は酷かった。アンデルセンなんかがこの場にいたら、悲惨なまでの罵詈雑言を、百以上は並べ立てて見せるに違いない。
「こちらでございます。若い娘の生気、どうか御気の済むまで、ご堪能くださいませ。」
女性が言い終わるよりも先に、壮年の男は、そのシミだらけの手を私の肩へと回した。その瞬間に、吐き気が込み上げてきたが、やはりガタイの良い中年男性が控えているので、逃げ出したくても逃げ出せない。
私は、半ば強制的に、先程の部屋へと戻る羽目になった。それも、気持ちの悪い男性に肩を抱かれるという最悪のオプション付きだ。しかも、男性はハァハァと呼吸を荒くしており、これ以上ないぐらいには気色悪い。