第15章 第3部 Ⅰ ※R-18
―――――――ここは、遊郭だ。
(逃げないと……!)
そう思って、残りの2人を見る。お初は、ガタガタとその身を震わせ、膝から崩れ落ちていた。
「松子さん、その……、今なら、逃げられませんかね……?」
私は、震える声で松子へ耳打ちをした。
松子は、私の言葉を聞いた瞬間、私を睨み付けた。
「そんなの、無理に決まってるでしょ……! 私たちは既に、籠の中の鳥。此処から逃げ出そうとしてもすぐに追っ手に捕まるし、酷い折檻が待ってる。最悪、見せしめにされて殺される。それより、これ以上、そんなバカなことをこの遊郭で口にしないで……! 今の会話だって、さっきの遣手(やりて)婆に聞かれたら、折檻されちゃうってば……!」
恐怖に顔を歪ませて、小声で答えてくれた松子に、私はそれ以上何も言えなかった。
これは、本当に夢なのだろうか。夢であれば、既にこれは悪夢だ。早く醒めてほしいと願うばかりだが、意識はいよいよ覚醒してきている。これでは、あの下総の時と同じ――――――、あぁ、そう考えるならば、合点がいく。夢が、またどこかの世界と繋がったのだろうか―――――?
「次、松子――――、いや、今日からアンタは松江(まつえ)だったね。松江、アンタの初めてのお客だよ。」
そんな言葉を投げつけられて、松江と呼ばれた松子は、屏風の奥へと連れていかれた。
「ホラ、あんたはいつまでそこで座ってるんだい!?」
「ひゃあぁんっ!?」
初老の女性が、お初のお尻をピシャリと叩いた。お初は、可愛らしい声を上げて、その身をビクリと震わせた。
「はぁん? 随分可愛らしい声じゃあないかい? その声は、今からここへ来る殿方へ聞かせてやりな? あんたには、随分とまァ好色なお客が付いたから。明日の朝にゃ、その声が嗄(か)れちまってるかもしれないけどねぇ? ひゃひゃひゃ……。」
そう言って、初老の女性は意地汚く笑い声を上げた。お初は、顔面蒼白といった様子で、初老の女性を見た。その瞳からは涙が零れ落ちて、随分と気の毒な様子だった。