第14章 第2部 Ⅳ
「中にどうぞ。……ちょっと、散らかってるけど。」
「失礼する、マスター。 今は、良いのか?」
エドモンは、ベッドの上に投げ出されたドライヤーを見て言った。
「うん、大丈夫。お茶で良い? すぐに用意できるのは、インスタントの、フルーツティーしか無いけど。」
私はそう言って、お茶と、前にエドモンから貰ったいかにも高級そうなティーセットを準備する。割ってしまわないように、そっとテーブルの上に置くと、茶葉の入ったティーバッグを2人分用意し、お湯を入れて、出来上がり。安いお茶で、エドモンからすれば口にも合わないかもしれないけれど、私は結構この味が気に入っている。
「ふぅ。美味しいな~……。」
エドモンも、私に合わせて、お茶に口を付けてくれている。
「お菓子もあればよかったね。」
「お前が必要ならば、何か取ってくるが?」
「ううん、要らない。エドモンは、食べないもんね。」
疲れてはいるが、何かを食べたいような気にはならない。
「今回も、ありがとう、エドモン。……あと、ごめんね。」
「さて、何のことやら。」
エドモンは、カップをソーサーに置いて、ふと笑った。
「今回も、沢山無理させて、助けてもらってばっかり。本当に、皆には感謝しても、し足りないぐらい。明日には、ジャンヌも完全回復するんだって。だから、たくさんお礼言うんだ。」
「……そうか。」
「相変わらず私は、自分の気持ちだけで周りを振り回すし、今回もそれで、皆を傷付けたりして。毎度のことながら、私は私が嫌になる。」
「……。」
「でもね、ファリア神父さんと、ほんの少しでも会えたのは、実はすごく、嬉しかったりして。」
「……。」
エドモンは何も言わないけれど、私の言葉に、静かに耳を傾けてくれている。だから、私は構わず喋りつづける。
「今までに何度か、エドモンの口から名前だけは聞いたことがあったけど、うん。すごく、あったかい人だったね。ちょっとしか会えなかったのが、残念だったけど。」
あの後、ファリア神父は5年も待たずに病死し、エドモン・ダンテスは彼の死体と入れ替わることによって、脱獄を果たす。それは、かつて監獄塔にいた“彼”が、自らの死と引き換えにして、私を送り出したことと、同じだ。