第14章 第2部 Ⅳ
「知恵を授け、教え、導くこと。それは即ち、希望を示すことに他なりますまい。ですが、奇しくもワタシにとっては、彼こそが、我が残り少ない人生における希望そのものなのです。このような絶望の淵にあってこそ、彼はその魂を絶望に浸してはいない。その姿こそが、ワタシの希望、そのものですから。ワタシは、少しでも長く、我が息子と共に在り、ワタシの持つあらゆる知恵と、遺産とを託したい。」
「――――――――」
エドモンは、下を向いたまま、黙っている。
「こんな我が儘、“息子”は、さぞかし迷惑だろうがな。」
ファリア神父は、ハハッと笑いながら、軽やかにそう言った。その声はどこか、陽だまりのようなあたたかさを思わせる。
「……いいえ、いいえ……!」
エドモンは下を向いたまま、絞り出すようにして言った。
「それでは、貴方様のおっしゃる“息子”と、2人とも逃がして差し上げましょう。それならば、問題はありますまい。」
「それは……、やめておきなさい。」
「な、何故です……!」
エドモンは、再び顔を上げる。
「そんなことをしては、無用な血が流れます。無辜の民の血が。」
「……。」
エドモンは、顔を上げたまま、じっとファリア神父を見ているのだろう。
「彼らの狙いは、ワタシの財宝。ワタシが此処にいる限り、被害はこれで済むだろう。しかし、脱走したとなれば、今までワタシに関わった人間全てが、傷付けられ始める。ワタシは、それを望まん。それは、誰よりもお前が理解している事だろう、エドモンよ。」
「!」
エドモンの動きが、完全に止まった。
「……。いつから、それを……?」
エドモンは眼を見開きながらも、そう口にした。
「ははは。息子の魂の色を忘れてしまうほど、ワタシは耄碌(もうろく)してはおらんよ! 姿形が変わろうとも、すぐに分かる!」
「……。」
エドモンは、言葉を失っているようで、独房に視線を送り続けるのみだ。