第12章 第2部 Ⅱ
『装うなかれ。
許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、
光あるものには闇を、生ある者には暗い死を。』
「ラスト……!」
細剣だけを携え、残り1体となった敵の背後へ、ジャンヌが迫る。
しかし、ジャンヌに気付いた敵は、その鋭く尖った爪を、大きく振りかざした。
「ぁ……! 危ない……!」
あのままでは、ジャンヌの剣が届くよりも先に、ジャンヌの体へ爪が届いてしまう。ジャンヌ自身もそのことに気が付いたのか、端正な顔を歪ませた。
今からでは、私の魔術も間に合わない。
「ジャンヌ……!」
ダメだと分かっていながらも、私は目を閉じてしまった。
「俺は此方だぞ?」
エドモンの声で、私は勢いよく顔を上げる。
見れば、エドモンがその爪を、腕ごと吹き飛ばしていた。
「ぁ……。」
私の口から漏れる、情けない声。そんな私とは対照的に、ジャンヌはすぐさま状況を理解し直し、その心臓へと細剣を突き立てた。
『休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を残そう。
永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
――――許しはここに。 受肉した私が誓う。
―――――“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”』
最後は、天草の洗礼詠唱によって、下級悪魔は完全に消滅した。
「ごめんなさい、アヴェンジャー……。」
エドモンへと向き直る。本来ならばああいった場合、対応するのはマスターの仕事だ。
「あと、ありがとう……。」
相変わらず、私は非力なマスターだ。でも、落ち込むのは、少なくともこの事態を解決してからにしないと。そう自分に言い聞かせる。
「おや? 助けてもらった貴女は、よろしいのですか?」