第11章 第2部 Ⅰ
「手間掛けさせるんじゃないわよ。」
ジャンヌが、構えていた旗を下ろしながら、息を吐く。
「ジャンヌ、まだ……!」
「!?」
刎ねられた魔物の首が、床を転がりながら、ジャンヌへと迫る。床を転がりながらも、ジャンヌへとその鋭い牙を向けようとする。もはや、ホラーを超えた何かだけれど、これが現実に起こっているのだから、対処する他に道は無い。
「気持ち悪……!」
流石のジャンヌも、半ば恐怖の表情で、その細剣を魔物の首へと突き立てた。サーヴァントの剣で床に縫い止められてしまえば、それ以上は動けないようだ。しかし、今度は胴体が動き出し、その鋭い爪をジャンヌへと振り下ろした。ジャンヌは一旦剣から手を放し、魔物と距離を取る。
「な、何なのよコイツら……!?」
「チッ……! 此方もか!」
エドモンが切断した両手足も、床を這いまわり始めた。もう、異常だとか異様だとかいう言葉では表現できない光景が広がっている。魔物の手足は無軌道に動き回っている。これでは、手当てを受けた男性が再び負傷するのも時間の問題だ。私に近付いてくる手足は、その度にエドモンが払ってくれているが、長期戦は不利だろう。一旦、離脱するべきかもしれない。そう言おうとした瞬間に、天草の玲瓏な声が、辺りに響いた。
『―――――告げる(セット)
休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ、印を記そう。
永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
―――――許しはここに。
―――――“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”』
天草の言葉に合わせて、放たれる黒鍵。その詠唱が始まると同時に、魔物の動きはぴたりと止んだ。そして、その姿は始めからそこにいなかったかのようにして、消えた。