第11章 第2部 Ⅰ
「やはりな。」
エドモンは冷静にそう言うと、私と天草の後方から一気に間合いを詰め、拘束の近接ラッシュを叩き込んだ。派手に戦闘をしてしまえば、潜入捜査が成立しなくなる。いつもの炎を使わないのは、恐らく周囲に異常を感知させないためだろう。それにしても、炎を抜きにしたって、エドモンは強い。今だって、相手に反撃一つだってさせていない。エドモンは、一方的に相手を攻めた後、トドメと言わんばかりに、最後に魔物の首をへし折った。一方のジャンヌも、旗のリーチを生かして相手の攻撃を受け流しつつ、一瞬の隙をついて相手の懐へ飛び込んだ。そのまま細剣を魔物の心臓部に突き立て、その胴体部分を消し炭にしていた。アヴェンジャークラスが2人いるとは、こういうことなのだと、この数秒間に改めて思い知らされたような、そんな戦闘だった。ジャンヌは呼吸すら乱さず、細剣を敵から引き抜いた。
「で? 次はアナタの番ですが?」
細剣を手にしたジャンヌが、目を細めながらじりじりと、看守の男へと詰め寄っていく。それはもう、獲物を追い詰める美しい獣のようですらあった。壁際へと追い詰められる看守。ジャンヌは容赦なく、その細剣を振り上げた。
「……!」
男は、あまりの恐怖に、声すらも出ない様子だ。男の体が壁に接触した瞬間に、ジャンヌの剣が男の顔面数センチメートル横へと突き立った。
「さて、今アナタは何を目的として、囚人に注射などしていたのですか? 答えなさい? さもなくば……」
「! ジャンヌ、後ろ!」
「!!」
ジャンヌは、私の声に素早い動きで反応し、身を翻した。
「……!?」
ジャンヌは、驚きに目を見開いているが、それは私だって同じだ。今さっき倒したはずの魔物が再び立ち上がっているのだから。1体はエドモンに首をへし折られ、もう1体はジャンヌによって体の半分以上を燃やされているにもかかわらず、再び立ち上がり、戦闘態勢を取っている。あり得ない。普通ならば、ここまでの手傷を負えば、消滅するか、少なくとも再起不能な筈だ。エドモンとジャンヌも、その異常性を認めながら、再び応戦する。当然、結果は決まっている。圧倒的な力の差に、魔物は成す術も無かった。ジャンヌはその首を刎ね飛ばし、エドモンに至ってはその両手両足を切断するという徹底ぶりで以って報いたのだ。さすがはアヴェンジャーである。