第10章 補完&後日談
静かに息を吐きながら、男は状況を整理する。あの調停者気取りの魔術によって、自分がマスターから引き離されたこと、しかして魔術的な繋がりまでをも断たれた訳ではないことを、瞬時に把握した。しかし、結界の効果なのか、じわりじわりと魔力を吸い取られていくような感覚はあった。長居することは危険だ。すぐにでも結界を破壊し、マスターの元へ向かわねばならない。が、マスターの物理的な位置が分からない。
「チッ……!」
男の口から、舌打ちが漏れる。
結界を破壊するには、それ相応の魔力が必要になる。男は再び、意識を集中し、結界の強度を探る。どうやら、随分と強力な代物らしい。それに、ひとつの結界を破壊したところで、結界があと幾つ張られているのかも分からない。その状況で徒(いたずら)に魔力を消耗することは、得策ではない。しかし、マスターの身の安全を考えるのならば、一刻も早くマスターの元へ行かねばならない。
一刻が永遠にも思われる時を、男は文字通りその身を焦がして、待つしかなかった。己が喚ばれることを、確信しながら。
牢獄の中、黄金の瞳が揺れる。
「俺はここにいる。俺を呼べ、共犯者よ。」
男は、その右手を、虚空へと伸ばした。
――――――少女は、令呪の宿る右手を、高く掲げる。
その刹那、魔力が失われつつあったはずの全身が、ドクリと脈打った。不可視のパスから奔流の如く自らに流れ込んでくる魔力を、男は確かに感じていた。今この瞬間にも、己は少女に求められ、引き寄せられようとしている。その事実こそが、男を滾らせる。
「俺を呼べ、立香よ!!」
――――――「来て、アヴェンジャー!!」