第9章 希望
……。
……ダメだ。このまま何もせずに終わっちゃいけない。
……私には、まだやるべきことが、残っている。
……こんなところで死んでいられない。尽きる前に、朽ちる前に。
まだほんの少しだけ、できることがあるはず……!
エドモンを、護りたい……!
霞む視界の中で、エドモンを見つめる。エドモンは、自らの胸に刺さった剣を自らの手で引き抜いた。エドモンも、此方へ手を伸ばしながら、何とか這い寄ってきている。だから、私も、この右手を伸ばす。
この手には、奇跡を叶えるための聖痕がひとつ、まだ残っている―――――!
「霊基……、修復……!」
右手の令呪が、鈍い光を放つ。令呪ならば、傷ついた霊基であっても、瞬時に戦闘可能レベルまで修復することができるはず……!
「させるかァ!」
敵が、私の右手へ、容赦なくその旗を突き刺した。
令呪が発動し、私の魔力がアヴェンジャーへと届くよりも先に、それは潰されてしまった。
「あ、ぎィ――――!?」
令呪という命綱を断ち切られた。私はこの瞬間、絶望の淵へと追いやられた。激痛と出血だけじゃない。絶望こそが、私の意識を薄れさせていくようだった。マスターとして、エドモンを護るための、最後の手段が、これで失われてしまった。その事実が、私の胸を砕いた。ごめんなさい、エドモン。私、貴方を護るって、言ったの、に……。
だから、せめて。私の残っている全てを、誰よりも大切な、貴方に。
令呪が潰されても、まだエドモンと繋がっている私のパスにまでは、手を出せない筈。私とエドモンを繋ぐパスへ、無理矢理にでも魔力を通す。魂が燃え尽きてしまったって構わない。――――私に残るすべては、全部、貴方に。
あとは、礼装にセットされているスキル。『メジェドの眼』、『オシリスの塵』、『イシスの雨』。もう私の魔力は皆無だし、この状況でどれほどの効果があるかも分からないけれど、全ての効果を、誰よりも大切な、あなたへ、届け。
いや、届かせる――――――!!!
―――――まずい。本当に意識が飛びそうになるのを、瀬戸際で繋ぎ留める。感覚もよく分からなくなってしまった今はもう、魔術回路が起動し、術式が起動したことを信じるしかない。少しでも長く、私はエドモンといたい、の、に……。