第9章 希望
「な……に……? か、かは……ッ!」
エドモンの口からは鮮血が噴き出し、そのまま地面に崩れ落ちた。
エドモンの胸は剣で貫かれ、そこからも血が噴き出していた。
急速に崩壊していく、エドモンの霊基。エドモンと繋がっているパスから、私はそれを嫌というほどに感じ取っている。
―――――いやだ
―――――消えないで
そう思うだけで、私の声は失われてしまったかのように、出ない。
どうして、こんなことに……?
「あはははははは! 油断したな小娘! これも、『調停者(ルーラー)』の特権“機能”なのだろう? 本物の化け物(サーヴァント)相手に、切り札も用意せずに挑むはずもなかろう?」
あぁ。この惨状は、『ルーラー』の持つスキルを行使した結果なのか――――。ひどく混乱した頭で、私の頭は、悠長にもそんなことを考えていた。右手に、じりじりと焦げるような痛みが走る。そっと右手へ目をやる。令呪が――――、残り1画となった令呪が、消えようとしている。当然だ。 『サーヴァント』を失ったマスターは、その令呪も失うことになる。今、私が契約している『サーヴァント』は、巌窟王/エドモン・ダンテスただひとりなのだから。
敵が、その双眼を血走らせながら、私へと駆けてくる。敵はあんなにもボロボロなのに、半人前の魔術師である私は、対処の方法など持ち合わせていない。
―――――ドン
――――身体に響く、衝撃。
私の腹部は、敵の旗によって、貫かれた。私の口から噴き出してきた、鮮やかな色の血を見て、私は自分の未来を、明確に知ってしまった。恐る恐る目線を下にやる。それと同時に、引き抜かれる、旗の穂先。遅れて襲ってくる、激痛。私の中ではっきりと描かれた、死の輪郭。
「――――――ッ、あああああああああああああああああ!!!!」
思わず、腹部を抑えて、地面へと崩れる。
「ぐ……、マス、ター……。」
エドモンの声。 随分と、苦しそうだ。
何とか意識を繋ぎとめて、エドモンの方を見る。残念ながら、私の視界は霞んでいるが、辛うじてエドモンの姿を見つけることができた。
―――――私、このまま死ぬの? こんなところで?
―――――まだ、みんなに、謝ってもいないのに?
―――――マシュが、私の帰りを待っててくれてるのに?
―――――――エドモンを護れていないのに?