第2章 【心はじじい】 じじいとおかんと一匹狼(男主)
やってきた伽羅坊はひどくやつれた顔をしていた。
何と無く想像のつく元凶はすぐ後ろでこちらを伺っている。
「俺も入っていいかぁ?」
間延びした声で白い頭が告げる。
もうどうにでもなれと言いたげな伽羅坊に免じてさっさと入れと促した。
「また何かやらかしたのか。鶴。」
呆れたように、問題をやらかして叱る時の呼び方をすれば心外だと声を上げる。
やつれた伽羅坊を見れば微妙な顔をしている。
「俺が隠してた菓子がなくなってたんだ!粟田口の短刀達と食べようとしたのに!誰かが食べたんだろうと思って探してたんだ。」
「探すも何も、今は出陣やら遠征やらでいない面子もおる。して、どこに隠していたのだ。」
「今の戸棚の一番奥だ。」
なんだか聞き覚えのある隠し場所である。
その菓子の行方は割と最近見たので知っている。
三日月宗近が鶴さんからくすねてきた例の菓子がしまわれていたはずの場所だ。
なぜ隠し場所を知っているのかは黙秘権を行使するが。
「鶴さんよ、それは名を書いておいたか。」
「隠したのに名前なんて書くかよ。」
とられない前提で隠したのならば名など書かない。
ごもっともである。
しかしそれは愚策である。
「名さえ書いておけば誰も手を出さなかっただろうに。」
うっと言い詰まる鶴さんにため息を吐く。
隠しても見つかってしまうことは必ずある。
菓子ぐらいなら名前さえあれば食べられなかったはずだ。
「だから狸に食われるのだ、少しは学習したらどうだ…。」
「また三日月なのか!?」
何度か食べられた経験のある鶴さんはがっくりとうなだれる。
三日月に食べられたのが運の尽き。
のらりくらりとかわされて弁償させることすら不可能になる。
被害者は泣き寝入り必至の相手だ。
「止めなかった私がいうことではないが、次からは書いておけ。ほれ、これでも短刀達は喜ぶであろうよ。」
今日のおやつに食べようと思っていたクッキーの詰め合わせの箱を鶴さんに差し出す。
途端にかたじけないと受け取って粟田口の部屋へと去って言った。
やっとうるさいのが去って言ったと伽羅坊がため息を吐く。
「助かった。」
「菓子一つで騒ぎよって。」
少し楽しみにしていたので残念だったが粟田口の子達の笑顔には変えられない。
机に向き合い伸びとともに座り直した。
