第1章 【心はじじい】 道具と人の狭間の話(男主)
「そうか。その言葉が聞けて安心した。」
打退けが映る瞳からは鋭い眼差しが送られる。
私を試すような瞳は何を伝えたいのかがなんとなくわかってため息が出そうになった。
今更すぎる注意喚起だ。
言われなくてもわかっている。
「”審神者の仕事は時間遡行軍の残滅。もしもの時は肉を切らせて骨を断つべきである。”」
どこかの審神者がそんな論文を発表して派閥ができたことを思い出す。
我々、審神者は刀のことはよく知らない。
個々の特徴や現代的価値はある程度学びはしたが「武器」としては全くと言っていいほどだ。
だからこそ、人の形を取る彼らを大切にするべきだと主張する派閥と物質として扱う派閥で対立することがしばしばあるのだ。
どちらかといえば私は中立派だが、刀達はどこも物質扱いの方がごもっともであると思う始末。
もちろん、三日月宗近も。
だからこそ、曖昧な返答で刀達を困らせていざという時に逃したり被害が出たりさせる審神者でないことをわざわざ見極めに来たのだ。
残念ながら無駄足だが、やはり心配なものは心配だったのだろう。
ご苦労なことだ。
「重々承知している。言われるまでもない。」
そう、言われるまでもない。
私はよくわかっている。
折れた刀達は、まだ一年目の私の隊の中にはいない。
だが、折れた刀達を見た審神者をよく目にする機会があった。
どんな思いで、かけた刀をつなぎ合わせっても私たちには何もできない。
泣き叫ぼうが、喚き散らそうが一度折れたら帰っては来ない。
「同じ刀」でも記憶がなければ「違う刀」だ。
一度散った花は、また生きてはくれない。
新たな花を咲かせるまで、永く永く待つのだ。
「私はどれだけ審神者でいられるだろうな。」
溢れた言葉に、三日月宗近は目を細める。
月の光に反射する三日月の打退けは薄暗い光を放つ。
「悲しいことをいうな。主はまだ若かろう。」
逸らされた目線はぼんやりと桜を見つめる。
散るのは彼らだけではない。
もしもの時はきっと…。
でも、まだもう少し。
彼らと共にいられるならば。
「そうだな。まだ少し早い。もうちょっとだけ。もう、ちょっとだけ。」
少しでも、彼らが戦わない世界を作るために戦う矛盾を続けたいと。
そう、思ってしまったから。