第3章 【心はじじい】 狸と槍(男主)
結局風邪を引いてしまった御手杵は軽い熱を出して寝込んでしまい責任持って夕方まで鶴さんに看病させた。
同田貫は止められなかったのは自分の責任だとつきっきりでいた。
初めて熱に浮かされる体験をした御手杵は何やら悪夢を見るらしく、ようやく寝付いた夜中にそっと見舞いに訪れてみた。
夜月に照らされた廊下で一息ついている同田貫を発見し、夜風を少し入れている部屋を覗き込む。
息は荒いもののだいぶ落ち着いたようだ。
「御手杵は大事ないか。」
「魘されてたけど今は落ち着いてるよ。空襲がどうとかって言ってた。」
「熱が苦手な者もおるが御手杵もそうであったか。本当に悪いことをしてしまった。」
「鶴のじいさんが浅はかだったのであって主が悪いんじゃねぇって。」
金色の瞳をこちらに見せる同田貫は薄く笑っている。
最初に本丸に来た時は戦さ場にこだわり、出陣しない日は戦わぬなら体など意味はないとよく吠えた面影はほとんどない。
多くの刀達に触れその過去を知り人を知り丸くなったのだ。
本人は未だ自覚はないだろうがギラギラとした獣の瞳ではなく優しい月のような瞳になった。
風邪の御手杵を任せられたのも一重に同田貫がなんだかんだ言いながら世話きだからだ。
「同田貫、ありがとうな。」
「なんだよ藪から棒に。」
ツンツンの頭を撫でても最近は拒否をしなくなった。
少し照れたようにそっぽを向く様がなつき始めた猫のようで気に入っている。
御手杵が元気になったら二人と保護者をつけて出陣でもさせてあげよう。
そう思ったところで部屋の方からうめき声が聞こえる。
立ち上がって音を立てずに眠る御手杵の近くによれば、薄眼を開け茶色い瞳を覗かせた。
「あれ…主がいる…。」
「おうとも。熱はまだあるな。」
額に置かれた熱冷ましのタオルが緩くなってしまっていた。
横に置いてあった冷たい水桶につけて変えてやるとホッとしたように息を吐き、弱々しい手で着物の裾を掴んできた。
そばに寄ってきた同田貫は空気を読んで無言でいる。
「すごく、あつい。溶けそう。」
「人の体は熱で溶けたりなどしないさ。」
「あついんだ。すごくあつくて。周りの刀達がみんな溶けてくんだ。あついあついって。みんな、みんなさ。」
ぎゅっと力がこもる手を優しく解いてやりながら手を握る。
きっと空襲で焼けてしまった時の思い出が蘇るのだろう。
