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【刀剣乱舞】心はじじい

第3章 【心はじじい】 狸と槍(男主)


御手杵は天下三名槍の中で唯一失われてしまった槍。
空襲による焼夷弾の直撃で溶鉱炉のようになった蔵で鉄塊と化してしまったという。

周囲には多くの刀がありその悲鳴も聞き届けていたのだろう。
うわ言のようにあついと繰り返す熱を持つ手を握り込んだ。

「私を誰だと心得る。お前の主であり審神者だぞ。刀達を溶かしたりなどしない。傷ついてもいくらでも直してやろう。お前もだ。御手杵。」

審神者による特殊な手入れは審神者の力を流し込むことで行われる。
本体の刀や槍にしか効果はないけれどその暖かい力を手に流してみるとふにゃりと気の抜けた顔で御手杵が笑った。

「へへ…あついのが…あったかくなった。」
「ゆっくりお休み。目が覚めたらきっと良くなっているさ。」

安心したように目を閉じて穏やかな寝息を立て始めた御手杵を見て手を離す。
微妙そうな顔をした同田貫が私の隣に座って御手杵を見ながら口を開いた。

「主はみんなが傷ついたら、悲しいって言ってたよな。」
「出陣するな、とは言えぬのでな。あまり怪我をしないようにとしか言えないのさ。」
「俺が傷ついても、悲しんでくれるのか。」

同田貫はまっすぐ御手杵を捉えている。
彼は美術的価値も薄く戦がなければ評価もされない刀だ。

兜割の逸話故にその名が知れているけれど天下五剣のように美しいとも言えず、実践においてもさして誇れる武勇もほとんどない。

そんな彼も丁寧に直す彼曰く酔狂な私をいつも怪訝そうに見る。
降って湧いた疑問というよりずっと気になっていたことを今聞き出したような口ぶりだった。

どう答えるべきか言葉を選ぼうと考えて、すぐやめる。
ありのままを言えばいいだけのことに飾りをつける必要はない。

「同田貫が傷を負って帰れば悲しい。だから私は一生懸命直すさ。風邪をひいてしまったら心配して看病しようとするだろう。悩み事があったら気になって何を悩んでいるのか聞きに来てしまうかもな。」
「それって。」
「他の者達にもしていることだ。それは他の者達と同じようにお前も大事にしている、という意味でな。」

揺れた月のような金の瞳に微笑みを向ける。
どんな刀であれ本丸にやってきた者は皆同様に大切にする。
この本丸のルールであり掟だ。

「心配するな。何度傷ついてもみんな私が直してやるさ。」

穏やかな寝顔の御手杵がまたふにゃりと笑った気がした。
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