第1章 イマドキ女子のとある事情。
かた、という物音がして、私は机に埋めている頭を上げた。
「ん……エレンか」
私が通う、この都立高校は近代進んでいくグローバル化に対応できるようにと、海外からの生徒を多く受け入れている。今では生徒の半分は海外から来たお金持ちだ。
エレン・イェーガー。
彼もそのうちのひとりで、出身はドイツだと聞いたことがある。あまりよくは知らないけど、同じ学年に、運動神経抜群で学年トップの成績の美人ないとこがいるとかなんとか。イマドキ、漫画でもそんな設定なかなか見ないっていうのに。どんだけ完璧人間なんだ、っての。
「どうしたの?なんか忘れ物でもした?」
「ああ」
エレンが自分の机の中から教科書を取り出す。
相変わらず、愛想ないな。
ま、別に知ったこっちゃないけど。
クラスメイトとは言っても、あまり親しく喋ったことはない。これまたクラスメイトの金髪碧眼のアルミン・アルレルトという見た目が女々しい男子生徒とくらいしか仲良く話しているところを見たことがない。海外出身だから日本語が分からない、という訳ではなさそうなのは確かだ。日本語は違和感がないくらい流暢に話す。たぶん、育ちが良いんだろう。
さっさと用を済ませて教室を出ていくエレンの背中に、なんとなく声をかけてみる。
「ねえ、エレンが住んでたとこ……ドイツってどんなとこ?」
これといって、何か理由があった訳でも、少女漫画的な何かを感じ取った訳でもない。ただ、理由をつけるとするなら、少し話してみたかったからだ。アルミン以外とあまり話そうとしないエレンという人は、アルミン以外とはどのくらい話すのだろう、という好奇心。
ただそれだけ。