第5章 魅惑の女性
「ごめんね花織さん、うちの緑川が酷いことを言ったみたいだね」
唐突に花織の背後から声が聞こえた花織は驚いてくるりと振り返る。ヒロトだ、彼もユニフォームにすでに着替えており、おはようと改めて挨拶をする。
「……っ、ひ、ヒロトさん?何でここに」
「外に二人の姿が見えたから降りてきたんだ。大丈夫だったかい?」
ヒロトが心配そうに花織の顔を覗き込んだ。綺麗な緑色の瞳が花織を覗き込む。花織は頷いて合宿所の方に視線を向ける。
「私は大丈夫だけど……。緑川くん、ちょっと悩みがあるみたいで」
「みたいだね、最近食事もあんまりとってないみたいだし。さっきの様子を見てるとかなり切羽詰まってるようだ。ねえ、花織さん」
ヒロトがさりげなく花織の肩に手を触れる。花織はヒロトに視線を戻した。ヒロトはいつもの穏やかな表情の中にも真剣さを交えて花織に語り掛ける。
「緑川のこと、俺に任せてくれないかな」
「ヒロトさんに?」
「うん。……大丈夫だよ、そんな顔しないで」
緑川のさっきの苛立ちっぷりを見ていたためか、花織の不安が表情に出ていたようだ。彼は選手でもない花織にはわからない、と言っていたが、選手であるヒロトに何か言われても刺激してしまうのではないかと思ったのだ。だがヒロトはフッと口元に微笑みを浮かべて花織を見つめる。
「おひさま園出身の俺たちは兄弟みたいなものだから」
その言葉には説得力があった。失念していたが、ヒロトと緑川はただ単に仲が良いわけではない。身寄りのない子供たちを預かる保護施設、おひさま園で共に育ってきた友だ。花織は頷いてヒロトの意見を呑む。
「うん。……でも何かあったら相談してね」
「もちろん。俺は頼りにしてるから、花織さんのこと」